関節リウマチのデータベースのまとめ

はじめに

関節リウマチで使われる国内のデータベースについて、具体的な特徴や各データベースごとの比較についてまとめました。

関節リウマチのデータベース研究では、レジストリ、レセプト・DPCデータ、病院電子カルテデータなど様々なデータソースが使われています。それぞれのデータベースごとに含まれる患者の特徴・データの種類が異なり、相性の良いClinical Questionや研究デザインが存在します。本稿が関節リウマチの研究調査をするときのデータベース選びの参考になればと思います。

関節リウマチで使われるデータベース一覧

まず、関節リウマチで使われている代表的なデータベースをデータの種類で分類すると、下記のように、大きく3つに大別されます。

  • レジストリ
  • レセプト、DPCデータ
  • レセプト、DPCデータ + 電子カルテデータ

関節リウマチでよく使われるデータベースを下記一覧表で比較しました。レジストリは関節リウマチ患者を対象としていますが、レセプト・DPCデータ、電子カルテデータは関節リウマチに限定されない一般的なデータベースであり、他疾患の研究でもよく使われています。

データベース分類開始年主な組織概要データソース登録者数
IORRA1)レジストリ20001医療機関東京女子医科大学が2000年に開始外来関節リウマチ患者から半年に1回データ収集する東京女子医科大学付属膠原病リウマチ痛風センターRA診療の専門医療機関5,200人(2017) 
NinJa2)レジストリ200249医療機関(2018)国立病院機構が2002年に開始した大規模関節リウマチデータベース国立病院機構を中心とした複数の専門医療機関15,341人(2016)
ANSWERレジストリ20163)8医療機関(2018)3)KURAMA4)をひな型に関西の6大学で開始した多施設共同データベース関西8大学病院での投薬を含む臨床データと経時的な疾患活動性データを含む3)約9,000人3)
JMDC5)レセプト、DPC2014(医療機関)2005(保険組合)270医療機関252保険組合(2020)複数の医療機関、健康保険組合から収集したDPC調査データ、レセプト、加入者台帳、健診結果をソースとするデータベース医科レセプト、調剤レセプト、健康診断データ、加入者台帳データ医療機関230万人保険組合670万人
MDV5)レセプト、DPC+電子カルテデータ2008(医療機関)2012(保険組合)445医療機関(2021)108保険組合(2020)全国の急性期医療機関を対象としたDPCデータおよび健康保険組合を対象とした、入院、外来、調剤のレセプトデータベース医科レセプト、調剤レセプト、健康診断データ、DPCレセプト、一部加入者台帳医療機関1146万人保険組合252万人
NDB5)レセプト、DPC2008全保険組合医療費適正化計画の作成、実施及び評価を目的とした電子レセプト及び特定健診・保健指導データのデータベース医科レセプト、調剤レセプト、健康診断データ※登録者数は総人口とほぼ同等
徳洲会6)レセプト、DPC+電子カルテデータ徳洲会グループ医療機関、64徳洲会グループ医療機関の電子診療録、DPCデータ、レセプト等の医療情報を統合したデータベースDPC、医科レセプト、調剤レセプト、検査結果、手術記録、リハビリテーション記録160万人(年間受診者)

主な略称

  • IORRA:Institute of Rheumatology, Rheumatoid Arthritis
  • NinJa:National Database of Rheumatic Diseases by iR-net in Japan
  • ANSWER:Kansai consortium for well-being of rheumatic disease patients
  • JMDC:Japan Medical Data Center
  • MDV:Medical Data Vision
  • NDB:National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan

clinical questionからResearch Questionを定めて研究計画を立てていく過程で、データベースの比較が行われます。関節リウマチのデータベース選定に役立つように、各データベースに含まれる関節リウマチ患者の状況を比較したものが下記となります。

対象年RA患者数年齢DAS-28*HAQ*MTX使用割合bDMARDs*
使用割合
ステロイド使用割合
IORRA1)20175,200人(2017)62.5(平均値)2.52J-HAQ0.5377.1%24.5%26.1%
NinJa1)201615,341人67(平均値)1.97[0.73 2.63]]mHAQ 0.00[0.00 0.13]65.9%25.5%29.2%
ANSWER3)20184,461人57.4**DAS28-ESR 4.3**HAQ-DI 1.1**61.8%43.1%**
MDV7)105,432人(2009-2015)59.2(bDMARDs患者平均値)5.8%(2009-2015)
JMDC1)2012-20132,762人51(中央値)32.2%11.5%38.8%
NDB8)2017825,772人60歳以上は71.8%63.4%22.9%42.1%
徳洲会メディカルデータベース6)2018
8,900人
(推計値)
60.0%(any DMARDs)26.0%

*DAS(Disease Activity Score)-28とは、疾患活動性評価指標の一つで、患者全般評価(体調が良い/悪い、いつもと変わらない、今までで最も良い/悪い、…など)と、特定の28関節の疼痛や腫脹、血液検査(CRPやESR)結果から算出されます。

HAQ(Health Assessment Score)とは、問診票から患者の機能障害の程度を測るスコアで、複数の日常生活動作について、困難さに応じてそれぞれ点数(0~4点)を患者につけてもらい集計します。使用する質問票によって、mHAQ(質問数を絞った変法HAQ)、JHAQ(日本語版HAQ)、関節炎に特化したHAQ-DIなどがあります。 

bDMARDsとは、抗リウマチ薬の生物学的製剤(biological DMARDs)を指します。

** ANSWERコホートに関しては「bDMARDs 治療歴がある患者」を対象とした統計値であることに留意ください。ステロイド利用割合が43.1%と高めですが、ステロイドに頼らざるを得ない患者が多い可能性もあります。

各レジストリの特徴

IORRA

IORRAは東京女子医大膠原病リウマチ痛風センター (Institute of Rheumatology, Rheumatoid Arthritis) の頭文字を取って命名されました。日本で最初に開始された関節リウマチを対象とした前向き大規模コホートになります。9)

注目するべきは、2000年に研究を開始した歴史あるDBであることに加え、これまでにIORRAを使用した133本以上もの英語論文が公表されていることです。10)

今でこそDB研究は各疾患領域で盛んにおこなわれていますが、2000年代前半に早くから日常診療に根ざした臨床疫学研究に取り組み長年のデータが蓄積されている点においては、特筆すべき功績があります。

データソースとしては東京女子医科大学単体であることが留意点です。そのような研究限界を理解した上で使用するか、解析対象をそのような単一施設の集団に絞って深堀するのであれば有用と考えられます。

NinJa

国立病院免疫異常ネットワーク(iR-net)を中心として2002年に構築された、全国規模の関節リウマチデータベース(National Database of Rheumatic Diseases by iR-net in Japan; NinJa)です。

対象施設には全国の関節リウマチ専門医療機関の約50施設が含まれます。国内の関節リウマチ患者全体の2-3%の情報を収集しているとされ、そのデータは関節リウマチ医療の実態に最も近いともされています。2)

IORRAとならび歴史あるDBの一つであり、長年にわたり関節リウマチの症例を多施設から集めてきました。レセプト、DPCデータからなる医療情報データベースと異なり、データは関節リウマチ診療において必要な項目に絞られています。2)

収集されているデータ例として下記があります。

  • 関節リウマチ関連手術歴
  • 活動疾患性やADL、QOL関連項目
  • 治療内容
  • 転機
  • 結核・感染症の発生状況
  • 入院を要した有害事象 など

ANSWERコホート

ANSWER (Kansai consortium for well-being of rheumatic disease patients)コホートは、関西を拠点にした関節リウマチ患者を対象とした多施設合同のデータベースです。京都大学、大阪医科大学(現大阪医科薬科大学)、大阪大学、関西医科大学、神戸大学、奈良県立医科大学の関西6大学から始まり、現在は、大阪赤十字病院、大阪市立大学を加えた8施設となっています。3)

疾患活動性の推移や治療経過などの臨床データを用いて、主に生物学的製剤の治療継続率に関する論文が複数発表されています。11)

レセプト・DPCデータの特徴

レセプト・DPCデータの特徴は、健康保険組合や医療機関を通じて、大規模なデータベースが構築されることが特徴です。他のデータソースであるレジストリは大学病院を中心に構築されることが多く、市中での診療や全国における疫学を評価することには向いていません。レセプト・DPCデータは一般化可能性が高い研究が出来る可能性があります。

取り扱いの注意点として、患者定義・アウトカム定義の工夫やバリデーションの問題があります。レセプト・DPCは医療機関が保険償還を目的として記録します。例えばレセプト病名は検査や治療を行うために付与することがあり、必ずしも臨床病名と合致しません。

また関節リウマチとしてのアウトカム指標(DAS-28やHAQ)は含まれていないため、実施できる研究には制限があります。

後述するJMDC Claims DatabaseやMDV社診療データベースを用いて過去に行われた研究として、

  • 治療実態調査
  • 治療継続率
  • 医療資源分析
  • 関節リウマチの合併症

に関する研究が多く行われています。

JMDC Claims Database

JMDC Claims Databaseは、2005年に開始した保険者ベースのレセプトデータが中心になります。複数の健康保険組合から収集したレセプト、加入者台帳、健康診断結果から構成されます。年間登録者数670万人、日本の人口約6%、健康保険組合加入者の約22%とされています。5)

2014年からは医療機関を対象としたデータの提供も開始しました。

健康保険組合のデータの場合、対象者の中心は健康保険組合に加入する労働者とその扶養家族です。高齢者を対象としたデータベース研究には不向きです。「関節リウマチで使われるデータベース一覧」で掲載した表を見ても、IORRAの年齢平均値 62.5歳、NinJaの年齢平均値 67歳に対して、JMDCの年齢中央値 51歳となっています。

MDV社診療データベース

メディカル・データ・ビジョン株式会社が提供するデータは主に急性期医療機関のDPCデータからなり、2008年に開始しています。保険者ベースのデータは、全国の健康保険組合を対象としたレセプトデータベースから構成され、2012年以降のデータを保持しています。

医療機関データの年間登録者数はおよそ1150万人で、日本人口のおよそ9%、急性期医療機関の病院数の約24%をカバーします。5)

DPC医療機関のデータが豊富にあり、そのような医療機関に通院または入院するような患者を対象に研究する場合、使用するデータベースとして適している可能性があります。

MDVも医療機関または保険者ベースの、レセプト、DPCデータとなるため、診療情報は含みません。特定の疾患を対象としていない点も同様です。全データではないですが、一部血液検査値が紐づくデータもあるので、検査値を組み合わせる研究も可能です。

NDB

厚生労働省保険局に集積されている、匿名化電子レセプトアーカイブです。2009年度以降の全ての電子レセプトデータ(医科、歯科、調剤、DPC)と特定健診データが収載されています。もともとは医療費適正化のためのデータでしたが、現在は研究目的に使用することもできるようになりました。

ほぼ全国民のレセプトデータを集積しているため、国内の医療の実態を網羅的につかむことはできます。なお、生活保護や労災保険や自賠責保険、自費診療のデータは含まない点には注意が必要です。1)

実際NDBを使った研究6)では、関節リウマチの疫学調査を行っています。その調査結果によると、日本における関節リウマチ患者は人口の0.65%と推定しています。

関節リウマチ診療では、リウマチ専門医の不足と偏在が問題となっています。地域によっては1人の専門医が抱える患者数が多かったり、専門医にアクセスできない患者がいたりします。NDBを使うことで、日本全国の診療におけるギャップを可視化し改善に寄与する研究を行える可能性があります。

レセプト、DPCデータ + 電子カルテデータの特徴

徳洲会メディカルデータベース

徳洲会グループの年間受診者約160万人のデータを集積しています。全国23都道府県64医療機関(うち、DPC医療機関は47施設)の入院、外来診療に関するデータが入手可能です。

徳洲会グループは全病院で株式会社ソフトウェア・サービス12)の電子カルテを統一して利用していることが特徴です。徳洲会インフォメーションシステム株式会社13)が全病院のデータを収集し、一元管理しています。集積された医療情報は厚生労働省の電子的診療情報交換推進事業(SS-MIX)に基づいてデータベースを構築しています。

レセプト・DPCを使った関節リウマチの研究が一般的になる中、患者定義(レセプト病名含む)のバリデーションが行われてこなかったという課題がありました。徳洲会メディカルデータベースではレセプト・DPCと電子カルテデータを連結されているため、日本で初めて、関節リウマチのバリデーション研究が行われました6)。その研究ではレセプト・DPCデータに加えて、下記臨床情報を利用していました。

  • リハビリ管理記録
  • 手術記録
  • 血液検査結果
  • 医師カルテ記載(フリーテキスト)

今後も血液検査値や手術記録、リハビリ記録、医師カルテを活用したデータベース研究が期待されます。

最後に

これまでみてきたように、関節リウマチ患者を対象とする研究に使用できるデータベースは複数あります。それぞれ規模や患者背景、データソースに違いがあり、一長一短があります。

研究をする際は、どのようなデータがあればよいかを考えて、それに合ったデータベースを選ぶことになります。

ここで紹介しなかったデータベース以外にも国内外で複数のレジストリは存在します。CIN

レジストリ検索システム(https://cinc.ncgm.go.jp/cin/G001.php)では、「関節リウマチ」に関する国内レジストリが11件登録されています(2021/8/21時点)。近年開始されているレジストリには、デザイン性や入力自動化を取り入れているものもあり、データベースとしての質の向上が期待されます。

今回は関節リウマチを対象としたデータベースを大きく3つの種類に分けて紹介しました。研究デザインの着眼点やデータベース整備も奥が深いテーマなので、それらについての記事も執筆する予定です。


参考資料文献

  1. 中島, 亜矢子. 総説 ビッグデータベース研究からみた関節リウマチの診療実態と課題. 2021, https://www.jstage.jst.go.jp/article/cra/33/1/33_6/_pdf/-char/ja.
  2. 松井, 利浩. 大規模関節リウマチデータベース “NinJa”が語る真実. 国立医療学会, 2020.
  3. “ANSWERコホートコンソーシアムとは.” 一般社団法人ANSWERコホートコンソーシアム, 2021, https://answer-cc.jp/about.html
  4. “KURAMA(Kyoto University Rheumatoid Arthritis Management Alliance)コホート.” 京都大学医学部附属病院リウマチセンター, https://www.racenter.kuhp.kyoto-u.ac.jp/activity/running-study/kurama-study/participation
  5. “日本における臨床疫学・薬剤疫学に応用可能なデータベース調査.” 日本薬剤疫学会「薬剤疫学とデータベースタスクフォース(TF)」, 2020, https://www.jspe.jp/mt-static/FileUpload/files/JSPE_DB_TF_J.pdf.
  6. Kiyoshi, Kubota. “The validity of the claims-based definition of rheumatoid arthritis evaluated in 64 hospitals in Japan.” BMC Musculoskelet Disord, 2021, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8063301/.
  7. Sruamsiri, Rosarin. “Persistence with Biological Disease-modifying Antirheumatic Drugs and Its Associated Resource Utilization and Costs.” Drugs Real World Outcomes., 2018, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6119169/.
  8. Nakajima, Ayako. “Prevalence of patients with rheumatoid arthritis and age-stratified trends in clinical characteristics and treatment, based on the National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups of Japan.” Int J Rheum Dis, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33016574/.
  9. “ようこそ IORRA研ホームページへ.” 東京女子医科大学膠原病リウマチ痛風センター, http://www.twmu.ac.jp/IOR/recruit/iorra.html.
  10. Yamanaka, Hisashi. “A large observational cohort study of rheumatoid arthritis, IORRA: Providing context for today’s treatment options.” Mod Rheumatol., 2020, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31475852/.
  11. “ANSWER Cohort Articles.” 2021, https://answer-cc.jp/article.html.
  12. “システムラインナップ.” https://www.softs.co.jp/, 株式会社ソフトウェア・サービス.
  13. 徳洲会インフォメーションシステム株式会社, https://www.tokushukai-is.com/.
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