CHEERS声明(医療経済評価における報告様式のガイダンス)のチェックリストを論文を基に解説(前半)

はじめに

論文報告の質を改善するために、これでまでに多くの研究報告ガイドライン(reporting guideline)が作成されてきました。報告ガイドラインのデータベースであるEQUATOR Networkによると、472(2021/08/19現在)ものガイドラインがあり、現在もその数は増えています。

日本では、2019年4月から費用対効果制度が本格的に運用開始となったり1)、最新の「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル 2020 ver. 3.0」に「5 章 医療経済評価」が導入されるなど、医療経済評価に注目が集まっています。

そこで、今回は医療経済評価の研究報告ガイドラインであるConsolidated Health Economic Evaluation Reporting Standards (CHEERS)声明3)、4)を紹介し、実際の論文を基に読み解いていきます。
※ CHEERS声明はISPORのタスクフォースでアップデートが進められています。こちらの動向にも注目です。

これまでの医療経済評価報告の課題4)

医療経済評価の研究では種々のデータを統合することが多いため、その手法や結果を慎重に吟味する必要があります。しかし、論文等により公表されている研究では、批判的吟味に必要な情報が必ずしも十分に提供されないこともあり、研究の透明性確保について課題も指摘されてきました。

一方で、研究者の立場からすると、全てのプロセスを詳細に報告しようとすれば、イギリスNICEのように数百ページにも及ぶような詳細な報告書になりかねず、そのような論文を受理してくれる雑誌はほぼ存在しません。そのため、必要な情報を取捨選択せざるを得ず、何を論文に記載し、何を省くかということに頭を悩ませていました。

CHEERS声明の目的

そのような課題を解決すべく、医療経済評価の報告様式を最適化することを目的として、CHEERS声明が2013年に開発されました。3)

このCHEERS声明は、書き手にとっては論文に含めるべき項目のガイダンスであり、研究成果の透明性を高めることにもつながります。一方で、読み手としてはCHEERS声明のチェックリストに沿って論文を読み解くことにより、論文の批判的吟味の糸口にもなります

CHEERS声明の主な対象者

CHEERS声明の対象者は以下の通りです。

  • 経済評価を報告する研究者
  • 出版のための評価を行う編集者や査読者

CHEERS声明を使える経済評価の種類

どの種類の経済評価にも使用することができます。

分析の例として、以下が挙げられます。

【分析の種類】

  • 費用結果分析(cost-consequences analysis: CCA):単一の指標に集約せずに、費用と効果を検討する。
  • 費用最小化分析(cost minimization analysis: CMA):比較する介入の効果が同等であり、その際に関連する費用のみを比較する。
  • 費用効果分析(cost-effectiveness analysis: CEA):効果を自然単位(natural unit)で測定する(例:生存年数の延長や血圧などの物理的な尺度)
  • 費用効用分析(cost-utility analysis: CUA):CEAの効果として、質調整生存年(quality-adjusted life years)や障害調整生存年(disability-adjusted life years)といった選好に基づく(preference-based)健康尺度で測定する。
  • 費用便益分析(cost-benefit analysis: CBA):効果を全て金銭単位で評価する。

チェックリストの項目一覧

CHEERS声明はチェックリスト形式で推奨を提供しており、6つのカテゴリー24の項目で構成されています。
それぞれ、経済評価を報告する際に含めるべき最低限の情報に関する推奨が付随しています。

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次の章では実際の論文を参考にしながら、チェックリストの推奨を確認していきます。

確認の参考とする論文(以下、参考論文)

BMJに掲載された下記の論文5)を基に確認していきます。

  • Cost-effectiveness analysis of sofosbuvir plus ribavirin in patients with genotype 2 chronic hepatitis C: an analysis with real world outcomes from a multicentre cohort in Japan. BMJ Open. 2019 Jun 19;9(6):e023405. PMID: 31221866

ちなみに、BMJの投稿規定をみてみると、economic evaluation studiesにはCHEERS声明を使うことが書かれています。

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タイトル(Title)

【推奨】

経済評価研究であることを明らかにする。あるいはより明確に、例えば「費用効果分析」のような用語を用いる。評価対象となる介入についても含める。

【参考論文】

Cost-effectiveness analysis of sofosbuvir plus ribavirin in patients with genotype 2 chronic hepatitis C: an analysis with real world outcomes from a multicentre cohort in Japan

適切な目録(cataloguing)や索引 (indexing)の作成を促進するためにも、タイトルは正確で、報告の内容を適切に記述することが求められています。参考論文は“Cost-effectiveness analysis”という明確な文言がタイトルに含まれています。

抄録(Abstract)

推奨】

目的(objective)、立場(perspective)、設定(setting)、方法(methods、研究デザインやインプットを含む)、結果(results、ベースケースや不確実性の分析を含む)、結論(conclusion)からなる構造化抄録を用いる。

【参考論文】

目的(objective)、方法(methods)、結果(results)、結論(conclusion)

abstractの構造や文字数は投稿先の指定に従う必要があります。したがって、必ずしも推奨通りの構造にはなりません。
ここで重要なのは、経済評価に関する最適な情報を提供することにより、分析と結果の正確な記録として役立つよう、十分な情報をabstractに含むべきということです。

背景と目的(Background and objectives )

【推奨】

研究の幅広い背景を明確に述べる。リサーチクエスチョンとそれが医療政策あるいは実際の診療とどのように関係するのかを示す。

【参考論文】
Introductionは下記のような展開で書かれています。

  1. 日本におけるHCV患者の実態
  2. HCV患者へのソホスブビル(SOF)+リバビリン(RBV)併用療法の有効性
  3. 医薬品承認時の臨床試験結果から得られた臨床効果を基に、ソホスブビル(SOF)+リバビリン(RBV)併用療法の費用対効果分析(CEA)を行ったという先行研究の説明
  4. 先行研究からは、実臨床の費用対効果を表していないという疑問
  5. 多施設共同大規模コホート研究のデータを用いて、実臨床での費用対効果を評価するという研究目的の説明

Introductionは「本研究の目的は、治療Xの費用対効果を評価することにある」と示すだけでは不十分です。正しく研究の目的を明確にするためには、研究対象となる集団、関心のある介入、関連する比較対照、医療の状況の詳細等の記述が必要です。

最後に

本記事ではチェックリストの前半部分「序論」までを解説しました。次回の記事では、「方法」以降のチェックリストの解説をしていきます。

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引用

  1. 「費用対効果評価について 骨子(案) 概要」 厚生労働省保険局医療課, 中医協費薬 材-231.2.20 https://c2h.niph.go.jp/tools/system/overview_ja.pdf
  2. 「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2020 ver.3.0」Minds診療ガイドライン作成マニュアル編集委員会 2021年3月22日 https://minds.jcqhc.or.jp/s/manual_2020_3_0
  3. Value Health. 2013 Mar-Apr;16(2):e1-5. PMID: 23538200.  https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23538200/
  4. 保健医療科学 2013 Vol.62 No.6 p.641-666 https://www.niph.go.jp/journal/data/62-6/201362060009.pdf
  5. Cost-effectiveness analysis of sofosbuvir plus ribavirin in patients with genotype 2 chronic hepatitis C: an analysis with real world outcomes from a multicentre cohort in Japan. BMJ Open. 2019 Jun 19;9(6):e023405. PMID: 31221866
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